仙台高等裁判所 昭和28年(う)535号 判決
日本国憲法第二十八条の規定する勤労者の団結権、団体行動権殊に図体交渉権が所謂日雇労働者にも保障されるべきであるとなす所論は原則論としては固より正当であるがこの憲法上の保障は使用者対被使用者(勤労者)の関係にあたるものの間に於て経済上の弱者である勤労者の利益を擁護することを目的とするものであるから使用者でないものに対して団体交渉権を行使するということは許さるべき筋合でないこと言を俟たぬところである。然るに本件被告人等原判示労働組合員は所謂日雇労働者として緊急失業対策法の定めるところにより、公共職業安定所の紹介を得た日に限り輪番で仙台市の失業対策事業に雇傭されていたに止まり同市と継続的雇傭関係に在つたものでないから、被告人等組合員中に偶々原判示当日輪番にあたつて就業していたものがあつたとしても就労時間限りで雇傭関係は一応切れるわけであり、又残余の組合員は現実には雇われておらず将来雇われることのあるべきものというに過ぎないから、このような関係に立つ被告人等組合員が専ら将来に関する事項につき組合の名に於て仙台市に対し団体交渉をなすことは雇傭関係という前提を欠き許されないと謂わなければならない。
而も被告人等が仙台市長と交渉すべきものとして挙示した原判示(一)乃至(五)の事項は緊急失業対策法に基く事業主体たる仙台市と雇傭労働者たる被告人等組合員との間における労働条件その他労資関係の規制を目的とするものにはいずれも該当せず原判決も適切に説示する如く単に失業者たる組合員の為の失業対策事業の強化拡大、生活援護対策等に対する政治的施策の要望乃至は市政に対する陳情たるの域を出ないものと解すべきであるから労働組合法等に所謂団体交渉には当らないものと謂わなければならない。従つてかかる事項の交渉申入が仙台市長を拘束し得ないことは固より当然で、これを所云団体交渉であると做す論旨は他の点につき判断を為す迄もなくその前提に於て既に失当として排斥を免れない。しかのみならず記録によれば被告人両名傘下の原判示組合員数十名は原判示の如く既に昭和二十五年九月十六日頃から同一項目を掲げて数回に亘り仙台市長に面会を要求し、秘書課長等係員から市としての対策方針につき説明を聴取しなお市長外市幹部の協議の顛末についても、同市長と席を同じくして一時間余に亘り論議をたたかわすところがあつたものでもはやこれ以上討議の余地がないという段階であつたに拘らず、尚且不満ありとして原判示の如く又々仙台市役所に赴き同市長に面会を強要してその拒否するところとなつたものであることが認められるから、たとえ市長として市民の陳情は聞くべきであるとしても、右のようないきさつの下に在つては市長において会見を拒否して被告人等の退去を要求したとて固より不法又は不当の廉ありと謂うを得ない。然らば被告人等の不退居を以て住居侵入罪を構成するとした原判決は固より正当で、所論のような法令の誤解もなければこれに基く事実の誤認も存しない。縷述の論旨は独自の見解に立つて原判決を批難するものたるに過ぎず採用の限りでない。
(後略)